最高裁判所第三小法廷 昭和55年(あ)1304号 決定 1980年10月14日
本籍
大分県大野郡大野町大字田中二七九八番地
住居
大分市大字古国府七九三番地
食料雑貨品販売業
山崎勝登
昭和三年三月二九日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五五年六月二六日福岡高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があったので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人椛島敏雅の上告趣意は、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員の一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 環昌一 裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己 裁判官 寺田治郎)
○ 昭和五五年(あ)第一、三〇四号
被告人 山崎勝登
右の者に対する所得税法違反被告事件の上告趣意は次のとおりである。
昭和五五年九月一八日
弁護人 椛島敏雅
最高裁判所
第三小法廷 御中
上告趣意書
原判決の量定は甚だしく不当であって、これを破棄しなければ、著しく正義に反することを認める事由がある。
理由
被告人は昭和三二年当時大分県自民党幹事長などの要職にあった亡岩崎貢の秘書となって以来、同人が政治活動を遂行していく上で、その活動を物心両面から支えてきた者である。
岩崎は昭和三四年同三八年の二回、大分県知事選に単独の保守系候補として立候補したが、いずれも革新系候補だった元木下知事に破れ落選した。岩崎は、この二回の知事選の費用を自分で調達しなければならなかったのであるが、その調達は思うにまかせず、多額の借額(約二億円近い金額)でこれを補った。被告人は、これらの政治活動費や選挙資金を捻出するのに岩崎のために本件の犯行を思いたったのである。決して自らの私利私欲のために、本件を遂行したのでは決してない。偉い人だと尊敬する人のために、負債を幾分なりとも整理してやり、今一度大分県政界で活躍してもらいたいという意思で本件を犯したのである。
このような政治家の選挙違反や買収事件等が問題になるとき、決って出てくるのが政治家は「知らなかった。あれは私に何ら相談せず秘書が勝手にやったものだ」などという政治家諸公の苦しむ答弁をテレビやラジオ等でよく耳にすることがある。しかし、自己の政治活動費や選挙資金の出所が分らないというのは常識に反し、到底信用できるものでないが本件被告人も言ってみれば、師と仰ぐ岩崎のために犠牲となった者である。逋脱した金員を岩崎の選挙資金に廻して、その選挙活動を物的側面から助けていたというのが本件の真相である。しかも、その岩崎が亡くなった後に残した多額の負債について、岩崎の相続人らは限定承認でその負債を免れたのであるが、被告人は債務者に対してその支払能力の範囲内で誠意をもって弁償し続けているのである。
このような被告人の行為に対して、懲役六月、執行猶予二年、罰金五〇〇万円の言渡を原判決は、これを破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければならない 以上